今日の私たちは例えば「音楽を聴くことが趣味です」という言葉を聞いた時に、その行為の中身として、必ずしもオーケストラやライブミュージックをその場所に行って、生で聴くこと、と言う行為を要求しないでしょう。レコードを集めるのが趣味かもしれないし、最近ではスマートフォンでサブスクリプションで毎日手軽に次々と新しい音楽を聴いて新しい好みを見つけて行くことかもしれません。必ずしも生の演奏ではなく、何らかのマシーンによって記録された音を、何らかの再生マシーンを通して聴くことを私たちは音楽を聴く行為や経験として既に受け入れています。これは現代の人々にとって当たり前すぎてピンと来ないかもしれませんが、例えば150年ほど前、1877年にトーマス・エジソンがフォノグラフを発明した以前の時代の人々にとって、音楽を聴くことが趣味、と言うフレーズの示す行為の中身と比べるとどうでしょうか。
1960年代半ば、マーシャル・マクルーハンはテクノロジーやメディアは人間の機能や感覚を拡張するものであると論じました。写真とそれに続く映画において私たちは視覚的な経験の中身を押し広げ、録音再生技術によって聴覚的な経験の意味するところも拡張させました。
視覚的経験の拡張された一例を「スローモーション」で考えてみます。まず、これは通常人間の目では見ることができない、知り得ない見え方でした。しかし、コマ撮り写真や映像において多くの人が見て、知り、理解するものとなりました。スローモーションの場面の夢を見ると言うのはスローモーションの場面を映画で見て知る以前にはあり得なかったのではないでしょうか。
では、機能や感覚が拡張した先にあるものは何なのでしょうか。それは「経験する」と言うことの定義が劇的に変わっていくことだと私は考えています。
テクノロジーによって拡張された現在の経験について再度、考えてみます。
ビートルズの○○聴いたよ、と言う時、生演奏を見ていなくても、CDや動画サイトで見た場合でも私たちはそう言うことができます。翻って誰かにそう言われた場合でも、私たちは即座に「そうなんだ、どうだった?」と応じることができます。
かたやどうでしょう、VRでオーストラリアを旅行したよ、と言われたら今の私たちはまだ、「そうなんだ、オーストラリアどうだった?」とは応じることがないでしょう。「へえ、VRどうだった?」といった類の言葉で応じるでしょう。
この例においてはVRはまだ不完全な代替であり、誠実に文字通りの「経験」をしたとは言えない、と言うことでしょう。しかし3次元的な経験の定義が根本的に変わる何かがまだこれからあるのだとしたら、オーストラリアを旅行したよ、の行為の中身は今とは全く違ったものになるもかもしれません。
スピーカーであれ、ヘッドセットであれ、テクノロジーが関与した経験において何が人を「でもウソだし作り物だし」とツッコム気持ちにさせる以前に没頭させるのか、それは感情の働きと、機械が身体的経験に無理なく繋がれた状態であることと私は考えています。
サイエンステクノロジーの研究と比べると、現在の経験の先にあるものをアートで思考するのは効率の良いものではないかもしれません。影を掴むようなものかもしれません。
作品制作の中で、私がまだ見ぬ未来の影をつま先ででも踏むことができるのか。量子論のように過去も未来も現在に同時に存在する地点においてそれは不可能なことではないかもしれません。
Tamami Mizutani’s art practice is research based yet sticks to a kind of poetic quality. She tries dealing with a romantic idea and a violent quality together by creating an abstract style of work, of which medium is chiefly sound. She is inspired by those conflicting qualities occurring in indigenous narratives. Her works can be an alternative entrance into thoughts of a political issue.
Mizutani often starts with her own personal experiences and memories and expands them into wider concerns. For instance, she remembered a story in her childhood in Yamato-city, Japan that a local government provided subsidies for equipping an air conditioner, which was a kind of luxury at that time, in every house adjacent to the US Navy base. It inspired her to visit the town again and record the sound of US fighter jets. The context of the sound should be threatening yet her memory of it inevitably attached to her peaceful childhood days. She attempts utilising her personal memory and feelings as a part of facets of a political issue which encloses complex multiple aspects.
Starting with her own experiences and perspectives is critical in her practice. Because when a matter is generalised, it would drop its unique colour of the real world, although it can be useful to overview and analyse it. When it is generalised, it would be just a ‘story’ which is swiped away from a screen in three seconds. The specificity occurring from a personal experience would underpin her work strongly. A generalised story can cultivate people yet can not really touch their heart. (or can not really inspire people?)
Her focus on a personal experience is also applied to viewers’ experience. One of her desires is implanting a certain mode into an ordinary scene, which would affect visitors’ bodily experiences. A bodily experience belongs to each person which should be a part of their world of reality even though the experience might rely on illusions, fantasies, or virtual reality. She believes a body is not subordinated to brain. Bodily participation is also intended in her works.
CV
2019年 4月 IAMAS情報科学芸術大学院大学 在学中
2018年 6月 ロンドン芸術大学セントラルセントマーチンズ校 ファインアート学部卒業
2004年 3月 慶應義塾大学文学部人文社会学科人間科学専攻中退
April 2019 Institute of Advanced Media Art and Science, Japan
June 2018 BA(hons) Central Saint Martins, UK, Fine Art
April 2000-March 2004 Keio University, Japan, Human Science
2018年7月 Anomalous Forms 於Crypt Gallery、ロンドン
2018年1月 テートエクスチェンジ 於テートモダン、ロンドン
2017年5月 レジデンシー参加、及びグループ展示 於Gasworks、ロンドン
2017年3月 I miss you until you were hereアーティストトーク 於White Conduit Projects、ロンドン
2017年2月 I miss you until you were here、 於White Conduit Projects、ロンドン
2017年1月 オリンパスUALフォトグラフィーアワードノミネート、於Art Bermondsey Project Space
24-26 July 2018
Anomalous Forms, Crypt Gallery, London
16-21January 2018
studio complex (Tate Exchange program), Tate modern, London
25-28 May 2017
The scriptless film project, Gasworks, London
14 February -12 March 2017
I miss you until you were here, White Conduit projects, London
17 January- 28 January 2017
Olympus UAL Photography Award(shortlisted), Art Bermondsey Project Space, London