NAKANOJO BIENNALE 2023 2023/9/9(Sat)-10/9(Mon) 9:30-17:00 無休
コスモグラフィア - 見えない土地を辿る ‒
群馬県北⻄部の山間地域に位置する中之条町は、古くから養蚕や農林業、そして温泉を中心にした観光業が盛んで、自然と人間が共存する山村文化が脈々と受け継がれた土地です。
ここ数年、私たちを取り巻く環境は異常気象や新型ウイルス、戦争や経済の低迷など、世界的な大きな潮流の渦に翻弄され、この地域にも大きく影を落としています。
数年前まで身近に感じた海の向こうには、自由に行き来することが難しくなり、世界地図は分断と空白に変わりつつあると感じています。
中之条ビエンナーレ2023のテーマであるCosmographia(コスモグラフィア)は、ドイツの地理学者ゼバスチアン・ミュンスターによって、16世紀に出版された世界各地の⺠族・風俗・習慣・歴史・宗教などを網羅した百科的な地誌のタイトルです。航空機が誕生する以前、世界地図のほとんどは想像で描かれ、彼は見えなかった世界を想像して美しい版画として残しました。
21世紀となった現代、私たちは世界中の出来事を日々知ることができますが、その反面、溢れかえる情報に覆いつくされ、見えなくなっているものが多くあります。
アーティストが見知らぬ土地に身を投じて制作するということは、自身の目で見ること、感じて想像すること、それを形にして伝えるという「見えない土地を辿る」行為と考えます。
生み出された作品を通じて見えてくる世界は、どのように光を放ち形づくられるのでしょうか。
地域の文化や風土に触れて、現代の地誌として描かれた新たなCosmographiaが、不透明な世界に示されたひとつの道標として見えてくることを願います。
2022年8月
総合ディレクター 山重徹夫
地域とアート<共存するということ>
中之条ビエンナーレは2007年の開催より、海外作家も含めた多くの参加作家と地域住民との交流を続けてきました。伝統行事への参加や食文化での交流など、地域に積極的に関わってきた作家も多く、家族のような繋がりが続いているという話をよく耳にします。何よりも地域がそれを受け入れ、楽しんでいるということを大変嬉しく思います。
中之条町に移住した作家の中には外国人作家も含まれ、山村に暮らす人々にとって異文化に触れる機会が少しずつ増えています。また、そういった交流は、自身の地域特有の文化など他者からの目線でないと気づき得ないことを私達に教えてくれます。このように、芸術文化国際交流は、自身の文化を知るための重要な役割となっています。
2013年にヴェネツィアビエンナーレと同時開催されたパビリオンゼロでは、中之条町の芸術への取り組みを映像で紹介する場をいただいたほか、中之条町出身アーティスト(現在ロンドン在住)のmasumi.w.saitoによる、伝統芸能である獅子舞をテーマにしたパフォーマンスが行われました。私自身が、この経験により中之条町の文化の魅力を再認識し、この文化をさらに多くの人たちに伝え守っていく必要性を感じました。
毎回、中之条ビエンナーレのオープニングでは、地元の人たちがアーティストと共演する舞台が作られます。主にステージでパフォーマンスを行うのは地元の子供たちであり、そして音楽は伝統芸能の楽団という地域文化を支えている人たちが担当します。ジャズと雅楽、コンテンポラリーダンスと神楽など異なるジャンルとのコラボレーションを、参加者は観客以上に楽しみながら一団となって舞台をつくっています。このように地元の人たちが国内外で活躍するアーティストと共演することで、新しい芸術をつくりだしながら伝統文化を繋いでいくという、とても面白い取り組みになっています。
2014年には、中之条町と同じく「最も美しい村連盟」 に加盟する北イタリアの小さな町アーゾロを訪れ、美術祭と映画祭といった芸術文化発信への取り組みや、美しい自然に寄り添った山村の暮らしを視察してきました。都会のような利便性はないものの、その美しい風景の中に続く暮らしは、群馬の山村文化と重なるものがありました。
近年は、個性を失いつつある都市に代わって、地方から文化を発信するという流れが大きくなり、個性的な地方には沢山の観光客が集まっています。自然や温泉といった観光スポットだけではなく、もっと人々の暮らしに根付いている祭りや習慣などの見えづらい部分にも焦点を当て、この土地で脈々と受け継がれた美しい文化を伝えていきたいと思います。
この芸術文化国際交流によって、地域が自信に満ち中之条独自の文化が後世に繋がっていくことを願います。
総合ディレクター 山重徹夫