中之条町中心部から車で 15 分ほどの場所に、
周りを山に囲まれた「美ら寿(ビラージュ)」という建築物がある。

1972 年、自給自足をしながら充実した老後の生活をできる施設を
つくろうという神戸照子の呼びかけによって設立された。
その際、人間回復のための理想郷設立を目指す思想に
数多くの人々が共感し、建設費の大半は寄付金によって賄われた。

建築物は井上一典設計事務所の設計であり、
斜面に沿ってなだらかに伸びる階段が印象的である。
閉鎖されてから長い歳月を経ているが、
このまま朽ちていくのを黙って見ているには余りに忍びない。

中之条ビエンナーレの期間中のみ、閉ざされた扉を開け、
新進気鋭の若手建築家による空間インスタレーションを行う
「中之条ビエンナーレ建築館」として利用することで、
再び多くの人々が来訪する場として息を吹き返す事となる。

「美ら寿」設立者
神戸照子 [随筆家/財団法人老人健康村 美ら寿 理事長/医療法人社団ほたか会 設立代表者] 1915-2005

戦争未亡人として「残された奥さん」(1957) などの随筆集を執筆する傍ら、鶴川村教育委員として青年教育に従事する。1972 年に財団法人老人健康村「美ら寿」を設立。その後も医療法人社団ほたか会や、群馬パース学園設立の発起人となり、老人福祉教育や看護教育の発展のため献身的に活動する。

「美ら寿」設計監理事務所代表
井上一典[建築家] 1914-1966

近代建築史に残る有名な設計競技、「広島平和記念カトリック聖堂建築競技」にて、日本を代表する 建築家丹下健三と並び 2 等入賞し脚光を浴びる。代表作に箱根観光会館・秩父市役所（共に現存せず）、尾崎咢堂記念館（相模原市）などがある。
代表者井上一典の急逝後も事務所は1978年まで同名称で引き継がれていた。